細長く冷たい雨がそぼ降る休日の夜
彼女は珍しいことに
いきなり俺の立つカウンターへと腰かけた
「いらっしゃいませ。」
その日、件の若手バーテンダーは定例の休暇
「申し訳ございません、いつもの者が本日はお休みを頂いております」
「ええ、判っているわ」
「はい」
「シェリーをお願い」
「かしこまりました」
彼女は物憂げな視線を
色とりどりの形をした酒瓶の森へと漂わせる
いつものように細長い煙草を
深紅に彩られた唇へ咥えようとするのを見て
俺はすかさず、その先端にマッチの火先を差し出した
「ありがとう。」
「どういたしまして・・・」
閑散とした店内にはスローな音が流れ
それを妨げるのは
ときおり甲高く鳴るグラスと低い囁き声のみ
やがて紫煙となった薄荷が微かに俺の周囲に香り始めた
「ねぇ、今日は何時までやってるのかな?」
「はい、本日は0時までとなっております」
「そう・・・」
「はい。いつもよりは早くなり申し訳ございませんが・・・」
「ううん、逆なの(笑)」
「ええ、、、」
彼女は悪戯っぽく微笑むとゆっくりとグラスを傾けた
「今夜はマネージャーもお休み?」
「はい、生憎ですが・・・」
「いいえ、それも良いの(笑)」
「はい・・・」
彼女は当惑する俺を手招きすると
「ねぇ、これから言う事をチーフに伝えてくれない?」
「はい、かしこまりました」
「今夜、こちらのお店がはねたら貴方達を私のお店にご招待できないかって・・・」
「はい・・・」
「実は今日、、、私のバースディなの、そこで皆さんにも祝って頂けたら・・・と」
「それはおめでとうございます。では早速伝えて参りますね」
もちろん、チーフが彼女の招待を拒む訳も無い
「じゃあ、来て下さるのを楽しみに待っているわね。」
そう言い残して彼女はシェリーを飲み干した
その後、定時になるのを待ちどうしく感じていた
五人の従業員達はそそくさと店を閉め
伸び続けていた鼻の下をすばやく畳むと
ネオンが煌びやかに輝く豪奢なドアを目指した
つづく