どこの店にも常連という存在ができてしまう
その歴史が長ければ長いほど。
今回もそのうちの一人について・・・
彼女は、すぐ近くにある高級クラブのママだった
とても大人で艶っぽい雰囲気を持ち
当時の青臭い俺にとってみれば憧れのような女性
ある日から、自分の店が始まる前に
艶やかな着物姿で俺の勤めるバーに寄って軽く一杯
という感じでよく訪れてきた
もちろん、素敵な彼女のことは
すぐに店の従業員の中で噂でもちきりになってしまう
「いったい、どうしていつも独りでここに来るのかな?」
皆、思い思いに勝手な言葉を並び立てては想像をめぐらせていた
何せ、普通であればうちのようなバーには
たまに客と同伴で来たりもするはず
現にそういうクラブやスナックのママやホステス達は沢山居たのである
しかし、彼女はいつも独りでカウンターに座り
バーテンダー達と他愛もない会話を短く交わすと
自分の店へと向かう
そんな状態が数か月も過ぎた頃
ある若手のバーテンダーが自慢気に俺にひそひそと囁いてきた
「実はさ・・・俺、あのママの彼氏にしてもらったんだ」
「へぇーーマジ?」
「うん、すっごい嬉しい」
「で・・・どうよ?」
俺はニヤニヤしながら彼にそこから先を問い質した
「先週の土曜にカウンターで二人きりで話していたら、向こうから誘われて」
「それで?」
「彼女の店の外で待ち合わせて。そのまま・・・」
そこで俺はもうどうでも良くなったのだが
彼が続きを話したくて仕方ない様子だったので
そのまま耳を傾けることにした
「すっごく良かった。もうメロメロにされた」
「ぎょえええーーー」
もちろん、その話はその日のうちに従業員全員に知れ渡っていた
どうやら彼は全員に自慢したかったようだ(笑)
「いらっしゃいませ。」
その夜も彼女は黒髪を高く結い上げ
典雅な着物姿でカウンターに独り腰をかけると
物憂げな眼をして件の若いバーテンダーを呼び寄せた
「ねぇ、ビールをくださる?」
「かしこまりました」
彼はニコニコしながらグラスに泡立つ液体をゆっくりと注ぐ
そんな二人の親しげな様子は
他の従業員達に羨望、嫉妬、無関心などの反応を引き起こしていた
つづく