細長く冷たい雨がそぼ降る休日の夜
彼女は珍しいことに
いきなり俺の立つカウンターへと腰かけた
「いらっしゃいませ。」
その日、件の若手バーテンダーは定例の休暇
「申し訳ございません、いつもの者が本日はお休みを頂いております」
「ええ、判っているわ」
「はい」
「シェリーをお願い」
「かしこまりました」
彼女は物憂げな視線を
色とりどりの形をした酒瓶の森へと漂わせる
いつものように細長い煙草を
深紅に彩られた唇へ咥えようとするのを見て
俺はすかさず、その先端にマッチの火先を差し出した
「ありがとう。」
「どういたしまして・・・」
閑散とした店内にはスローな音が流れ
それを妨げるのは
ときおり甲高く鳴るグラスと低い囁き声のみ
やがて紫煙となった薄荷が微かに俺の周囲に香り始めた
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