人の記憶と言うものは不思議なもので
古くなればなるほど美化されると言うか・・・
俺の場合は特に頭の構造が
非常に自分に都合よくできているせいなのか
年々、嫌な思い出は綺麗さっぱりと無くなり
良い想いばかりがどうやら残っていくように思える(笑)
殊に男女間の出来事に関しては
成就しきれなかったものほど
その感はとても強く切ない記憶として
いついつまでも忘れ得ないものかもしれない
とある週末の夜
俺が受け持つカウンターは
いつもとは打って変ったように
ひとりひとりの客の様子を見る暇もなく繁忙を極めていた
そこで密かな愉しみであった人間観察をサッサと諦め
俺は眼の片端で人の動きを追いながら
次々と降ってくるオーダーを黙々とこなしていた
すると・・・
「あの、、、ココって空いてます?」
今、空いたばかりの椅子の前に二人組の女性が佇んでいた
「はい、いらっしゃいませ」
「たった今、空いたところですよ」
「あぁ、良かった~!やっと座れる♪」
すぐに二人は腰を下ろしてホッと安堵の笑みを浮かべると
顔を見合わせて揃ってメニューを見つめる
「ご注文は何になさいますか?」
俺が女性達に視線を向けて問いかけた時
二人組のうちのひとりの顔に
どこか見覚えがあるような気がした
「ん・・・?」
彼女も怪訝な表情をしてこちらをじっと見つめ返す
「あ!○○君じゃない?」
「久しぶり!ずいぶん変わっちゃったじゃない?」
「あはは、それはお互い様だよ」
なんと彼女は中学校の同級生だった
当時の彼女はとても幼くガキっぽい様相だったので
俺にいつもからかわれていた存在だったのだが
ほんの数年の時が流れると女性はすごく変わるもの(笑)
昔から変わらぬ彼女の切れ長の眼には
今では大人の女の雰囲気が漂っているように俺は感じてしまった
しかしいくら再会を果たしたとはいえ
ここはお店。
俺は当然のように
彼女と久しぶりであっても
じっくりと互いの近況を話す時間も無く
とにかくカウンターの中で忙しく立ち働かなければならなかった
「ごめんね、今日はバタバタしてて・・・」
「ううん、気にしないで。」
ニッコリ微笑むと彼女はグラスを手にとり
傍らの友人と楽しそうに話し始める
そこで「まぁ一息ついたらまた話せるかも・・・」
などと俺は気楽に思っていたのだが
皮肉なものでその夜に限って客足がひきもきらず
続々と繰り出されるオーダーに大忙し(汗)
もちろん彼女の存在を少しは気に留めてはいたのだが
そんな余裕もすべて消し飛んでしまった
「すいません、そろそろ帰ります」
ふと気がつくと彼女達が席を立っている
「ありがとうございました。またお越しください」
突然の事に焦った俺はそんな言葉を吐くのが精一杯・・・
「また、来ます」
彼女はそう言うと
一瞬、俺の眼を見つめ
そっと手に一枚のコースターを押しつけた・・・
さて、、、今回の選曲は
Barbra Streisand 『The way we were』