むかしむかし、
俺が貧乏学生時代の頃に
友人から誘われて「とあるバー」にバイトとして
数年間、雇われていたことがあった
何しろ事前に友人から聞いた労働条件が
それまでの体力勝負のバイトとは違って食事付きで時給も高い
そのうえに、きっと
タダ酒は飲めるは~~女にはモテるは~~
などと言う甘い考えを持っていたので即座にその話へ俺は飛びついた
しかしそこで過ごした数年間の出来事は
決して甘くもなく辛くもなく
俺は様々な経験を積む事ができ
すごく貴重な記憶として今も脳裏に深く刻まれている
バーには必ずカウンターと言うものがある
しかしそれを境界線にして
人間の様々な表裏がよく見えるもの・・・(笑)
何しろあっち側は酒を飲んで酔っ払う為にやって来る
こっち側はまったくの素面のまま。
よぉ~~~く
その本性ってのが透けて見えてしまう
ある時、まだ手元が怪しい
新人バーテンダーである俺の前に座って飲みだした
ホステスらしき賑やかな三人組の女性達
饒舌な会話が突然ふと途切れる瞬間が何度も訪れる。
俺が素知らぬふりをして彼女達を見ていると
その間、3人が3人ともに
酒に酔った視線を虚空に漂わせてじっと無言でいる
そしてしばらくするとまた大声でしゃべりだす
これを何度も繰り返す。
しかしそのうちにその中の一人が俺に視線を合わせ
ぼそっと声をかけてきた。
「お兄ちゃん、こういう商売は初めてだよね?」
「は、はい、わかりますか?」
「ぎゃはは!そりゃわかるさ。」
「もうこういう商売を何年もずっとやってるからねぇ・・・」
そして彼女はグラスの中の濃い酒を一気に飲み干すと
ハスキーな声でいきなり俺を諭すように
「いいかい・・・すごく今は楽しいかもしれないが、、、」
「いつまでもやっちゃいけないよ!」
「潮時ってのはなんにでもあるんだからね。」
「ありがとうございます」
「うんうん(笑)」
今でも俺の記憶の中には
ニコッと微笑んだ彼女の唇から
少しはみ出したルージュの赤が鮮やかに残っている
いつかまた続く・・・