エレベータを降りるとそこは
そこかしこに日常生活の匂いが漂う
ごく普通のマンションの一室
教えられたままにインターフォンを押すとドア越しに人の気配がする
「ようこそ~待ってたわよ」
俺を招待してくれたS女性がわざわざ玄関に出迎えてくれた
「さぁ!まずは主催者を紹介するね」
「うんうん、よろしくです」
リビングには既に数名の男女が座りながら
ごく日常のような雰囲気で和気藹々と談笑している
「○さん!こちらがこの間、言ってたRさん」
彼女が声をかけると
彼は人懐っこい笑みを浮かべ右手を差し出す
「どうも、初めまして○です。」
「こちらこそ、今日は厚かましくもお邪魔させて頂きました」
「どうぞゆっくりとしていってください」
「ありがとうございます」
俺はしっかりとした彼のグリップを感じ
周囲の空気にすぐに馴染めそうな気がした
簡単な自己紹介と説明を聞き終え
ともかく腰を下ろし室内のあちらこちらを眺めると
すぐ隣に開かれた広い部屋があり
既にそこで一組の男女による緊縛が行われ始めていた
「なるほど・・・あそこで順番に練習するんだ」
俺は手に持ったグラスをテーブルにすかさず置き
じっくりその様子を眺めることにする・・・
襦袢を纏い正座した女性の両肩から腕を
男性が何度も繰り返し優しく揉む
やがて頃合を見て背後に両腕をまわし
一気に男性が素早く縄を這わせると
それはまるで生き物のように女性にしっかりと纏わりつき
あっという間に女性を縛め天井から吊り上げた
その間、二人は一切無言のまま
息の合った動きにはまったく無駄がなく
吊り上げられた肉体の重みに縄が軋む音とともに
もたらされる女性の吐息が微かに漏れるくらいだった
俺はそのあまりの手際の良さに感嘆し
せっかくの縄目を視線で追うこともできずにいると
「彼は今日の参加者の中でも一番古参の方なのよ。」
いつしか俺の傍らでその様子を見つめていたS女性が耳元で呟く
「うん、素晴らしい。」
「でしょ?(笑)」
真っ赤に染まった女性のうなじと
切なげな口元を眼で追いながら俺は黙って頷いた
つづく