夕刻から降り始めた
篠突くような雨が一段と激しくなり
大粒の水滴が地面に叩きつけられる音で
一切の喧騒が打ち消される中
ぼんやりと浮かぶような街灯だけを頼りに
俺と彼女はシティホテルのロビーで待ち合わせた
生憎の空模様だったが
その夜、ずぶ濡れの俺たちは
とある男女達とそこで逢う約束をしていたのだ。
目印は手元にある黄色の傘
ふと人の気配を感じ
雨だれが幾本も滴る窓から視線を移すと
そこには派手なアロハシャツを纏ったサングラス姿の若い男性が佇んでいた
彼は俺の手元に置かれた傘の色を確認すると
「こんばんは、もしかしてRさんでしょうか?」
「ええ、そうです。」
「遅くなり申し訳ありません。皆さん部屋でお待ちかねです」
外見とは裏腹な丁重なその言葉遣いに
スマートさを感じたので
俺は立ち上がり
ともかく彼女をエスコートすることにした
「では、こちらへ・・・」
彼はそそくさと高層階へと向かうエレベータのボタンを押すと
素早く俺たちを招き入れる
しかし、周囲に居る他の客を慮ってか
俺と彼は互いに一切の無駄口をたたかないまま部屋の前まで向かう
そして彼は周囲を見回しながら
3度ドアをノックした
つづく