世の中には
薀蓄(うんちく)が好きって方が
結構、あっちこっちに居たりするものである
特に趣味関係や嗜好品などに
そのような「通」が多いように感じる
もちろんそれも周囲の状況や話題に合わせ
品の良い範囲内での披露で収まれば素敵なんだが
得てしてTPOに気づかずに行き過ぎてしまう場合もあり・・・
A氏は俺が勤めていたバーの常連さん
大抵の週末は決まって
一番大きなカウンターの中央に独り陣取っていた
彼は人柄も良く話題も豊富で
バーテンダーとも仲良く色々な会話をしながら
いつも楽しくお酒を嗜んでいるのだが
そんな彼にも悪い酒癖がいくつかあった
それは・・・
「薀蓄好き」と「ナンパ好き」
ともかく酒豪ではあるのだが酔うと
ついついと勢いがつくのか
周囲に気に入った女性客を見つけたとたん
いきなり見境も無く薀蓄を持ち出しては語りだし
挙句の果てはしつこく口説き始める
「おーい!俺のボトルを全部ココに出してくれ」
「はい、かしこまりました。」
彼は何本ものボトルを前にして自慢そうにニンマリとすると
そっとカウンターの端に独り座っている
ロングヘアーの女性に流し目を送り始めたのだ。
「あっ!こりゃ、、、ヤバイかもぉ」
俺は心の中で焦りながら呟いた
何せ彼が今までに何度も女性を口説く現場を目にしてきたのだが
必ずと言って良いほど成功した試しが一度も無い
そしてその後始末とも言うべき彼の愚痴をそこから閉店まで
その度に俺は聞かされる運命となるのだった(汗)
「おいおい、あそこの彼女に何か一杯おごりたいんだけど?」
「はい、そうなんですか・・・」
「俺のボトルから何か作って持っていってよ」
「わかりました、ではあちら様に伺って参りますね」
「うんうん、うまく頼むよ!」
内心、俺はうんざりした気分だった
何しろカウンターに座っているロングヘアーの女性客は
この街の業界でも有名な通人である女性なのだ
「お客様、あちらの男性より何かご馳走させて頂きたいと・・・」
「あら?そうなの(笑)」
彼女は優しく俺に微笑むとカウンター越しにA氏を見つめた
「うーーん、そうね。」
「じゃ、あのビーフィーターでカクテルをお願い」
「かしこまりました、何を差し上げましょう?」
ロングヘアーをかき上げると
そこで彼女は迷うことなく俺に向かってオーダーした
「ブルームーンを。。。」
するとその声を聞くや否や
A氏はそそくさと席を女性の隣へと移して話しかけた
「ブルームーンなんて貴女はすごくセンスがいいですね」
「そうかしら?」
「ええ、ブルームーンには極めて稀なと言う意味があるんですよ」
「そうよね(笑)たしかに青い月なんてまず見ることもないもの」
「そうです、しかも使われているリキュールをご存知ですか?」
「ええ、少しはね・・・」
「パルフェタムール、仏語で永遠の愛という意味なんです」
「あはは、確かにそうよね」
「今夜は極めて稀なことが起きそうです」
「そうかしら?」
そこで彼女は悪戯っぽい目でA氏を見つめ
目の前に置かれた
淡紫色のカクテルグラスを手に取って彼と乾杯をすると
一気にその中身を飲み干してしまい
「ブルームーンにはもうひとつの意味があるのをお忘れ?」
そう一言いうとサッサと席を立ってしまったのです。
俺は目の前で呆然としているA氏を眺めながら
「あ~ぁ~~今夜もまた長くなりそうだよな~~」
などと思い、ついため息が出てしまった・・・
『ブルームーン』
青い月はめったに見ることは無いと言う事から
「出来ない相談」=「貴方とは話したくない」との意味もある
男性の皆さん!
このカクテルを女性がオーダーした時は要注意♪
今回の選曲は
『This Masquerade 』 Carpenters
Are we really happy here
With this lonely game we play ?
いつまでも自分の殻(仮面)に閉じ篭っていても・・・
と言う意味なんだが
仮面は自らすべてを晒す術であり
また逆にひた隠す術でもあるのかもしれない(謎)
薀蓄好き@R