「どうしてこの場所にいるの?」
そう心の中で自問するのは何度目だろう・・・
傍らにいる彼は
まるで何事もないように
部屋のなかでごく自然に振舞っている
「なんだか、初めてじゃないみたいよね?」
「あはは、随分以前に・・・あるだけさ」
例えそれが少しであろうが
今の私にとっては大きな溝に感じる
特別に自分自身が生真面目とも思わない
これまでにHな経験もそれなりにしてきたつもり
そんな私が数日前彼から誘われ
この場所に来る事を自分自身で決めたのに・・・
「君が他人の前で乱れる姿を見せて欲しいんだよ」
「すごく俺にとってそれが刺激になるからね」
「好きだからこそ、こんなイヤラシイ事もさせてみたくなる」
「きっと君も楽しめる筈だよ。大丈夫面白いからね」
彼の放ったそんな言葉が
グルグルと繰り返し頭の中に巡り始める
もちろん
そんな妖しい事に興味が無かったかと言えば
嘘になるかもしれない
でも私の心を
強く突き動かしたモノは
そんな言葉や関心では無かったのです
「キラワレタクナイ」
ただそれだけ・・・
「それでは、軽く自己紹介から始めてみましょうか・・・」
突然
明るく響きわたるような
声が聞こえて
急にざわめいていた部屋の中が静まる
立ち上がって
挨拶を始めた彼に寄り添う私は
突き刺すようなたくさんの視線を感じて
何を話しているのか上の空
忘れかけていた不安が
一気に襲い掛かってくるのに耐えていました
だから
色々なゲームとお酒で
部屋の雰囲気が和やかになっても
私一人
まったく楽しめないし、酔えないまま…
「大丈夫、何とかなるよ」
「ここまで来たら楽しむしかないからね」
彼はそんな言葉しか
私に投げかけず周囲の空気に気をとられているばかり
自分でもすごくわかるくらいに
私は顔が強張り
周りに作り笑いを浮かべながら
彼の手を握りしめることで紛らわせていたのです
「さて、ここで席替えを行います!!」
男女毎にトランプのカードが配られ始めると
彼がそっと私に耳打ちをした
「大丈夫、他の男と話すだけなんだから」
でも
その一言は
私をまったく落ち着かせない響きでした
そして
言われたまま
うつろな指先で
目の前に置かれた何枚かの中から
カードを無造作に一枚引く
それは…
「ハートの5」
つづく
テーマ : エロス
ジャンル : アダルト