「あら・・・なにかしら?」
彼女は助手席で屈みこむと自らの足元を探った
「ふぅぅん、なんだろコレ。」
俺は車を走らせながら
差し出されたキラキラ光るモノを目の端で捉えると
思わずハンドルをとり損ねそうになった
「さぁ・・・どうしたんだろ」
「うんうん、それで?」
隣の彼女からは冷ややかな空気が漂ってくる
「うーん、多分、この前に友達を送った時に落ちたのかな・・・」
「ふぅーん、このイヤリングが?」
「友達の彼女も一緒だったし・・・」
「へぇぇーーーそうなの?」
「うんうん!きっとそうだ!!」
「で・・・いつ?」
「うーん、いつだっけ・・・」
その日、俺はいきなり健忘症にかかったようだった
何しろ車中の会話のおかげで
目的地までの道を何度も大きく間違えたのである
「ねぇ、もう一度・・・お願い・・・」
滴るような湿り気を帯びた吐息がフロントガラスを曇らせる
女は助手席から俺の首筋に腕をまわすと
別れ際のキスを求めてその赤く綺麗な唇を微かに開けた
No, I can't forget this evening
Or your face as you were leaving
But I guess that's just the way the story goes
You always smile but in your eyes your sorrow shows
Yes, it shows
カーラヂオから流れる「Without You」
マライアの歌声がいやがうえにも心と身体をかきたて
唇を何度も重ねあう
ガタン。
突然シートが横倒しになる
「また、、、欲しい」
「今、ココで?」
「うん、ココで今すぐに・・・」
「さっきまであんなにシテたのに?(笑)」
「でも、ホシイの。」
女はその大きな瞳でコチラをじっと見つめて・・・
俺は助手席から漂う冷ややかな空気を感じつつ
何度も道を間違えて慌しくハンドルを切りながら
そんな先日の記憶を思い出していた
「あの時に落ちたのか・・・」
どうやら、、、
俺の健忘症は急性で一過性のモノらしい(笑)
実はつづく